冬の逃避行

喧騒が苦手


抑圧が苦手


ついでに言うと価値がない責任が苦手


苦手なものが多過ぎる


春の木々の香りが好き


透明な海が好き


静寂な部屋が好き


好きなものが溢れてる




堤防から海を覗き込む


透明な水は海底の岩や海草を見せてくれる

ところどころに水色に写るところは砂地だろう

半透明の魚群が泳ぐ

これは鰯か鯵の群れか

その近くにフラフラ漂う烏賊

すーっと透明な海に吸い込まれそうになる

苦しむことなんかなくて

すーっと深くに沈んでいく

なぜだか呼吸はできる

水を蹴る両足は

大きなヒレになる

推進力で滑らかに

透明な海をすーっと進む

どれぐらい泳いだか

欲望は削ぎ落ちて

生まれたばかりのころのように

純粋で美しい

『帰っていくんだね』

『まだ間に合うかな』

『人は美しいよ』

『でも愚かだね』

『もうここに来てはいけないよ』

『夢見るよ』

『さあ人を愛して』
『諦めないで人を愛して。なぜなら君は』

『世界はひとつではないんだね』